長期ひきこもりの家族向け専門プログラム 概要

『長期ひきこもりの家族向け専門プログラム』とは

『長期ひきこもりの家族向け専門プログラム』は、2014年度からNPO法人メンタルコミュニケーションリサーチ(MCR)で立ち上げた、長期化した不登校・ひきこもり事例を支援するための家族対象支援プログラムです。

本プログラムは家族療法と認知行動療法を統合したものであり、家族療法、コミュニティ強化と家族訓練(Community Reinforcement and Family Training:CRAFT)、動機づけ面接などを背景にしながら、「葛藤」の概念に重きを置くことによって長期化した不登校・ひきこもり事例の支援に特化したものとなっています。

本プログラムでは、臨床心理士のファシリテートのもと、複数の家族と一緒に不登校・ひきこもり支援の知識とコミュニケーションスキルを学んでいきます。

プログラムの講義とワークを通して、家族と本人が円滑で肯定的な関係を形成・維持していけるようにすること、本人が訪問支援などの第三者による支援を受けられるようにしていくことを目指します。

長期化した不登校・ひきこもりの家族支援

不登校・ひきこもり状態が長期化すると、本人が支援機関を利用しないだけでなく、家族が本人とコミュニケーションを上手くとれない状態になっている場合が珍しくありません。

このような場合、本人の支援を行う前に、本人を支える家族の支援(家族支援)を行う必要があります。家族が本人と良好かつ建設的な関係を築くことができれば、それは本人が支援機関の利用を考えるステップへの第一歩となります。

長期化した不登校・ひきこもり事例の支援プロセス

本プログラムでは、「健康・安全」、「リソース」、「葛藤」という3つの段階に沿って支援を進めます。

葛藤とは、変わりたい理由と変わらなくていい理由が拮抗し、「メリットとデメリットが相容れずに、どちらを選ぶか悶々とすること」です。不登校・ひきこもり状態の代表的な例としては、現状を変えたい気持ちと変えたくない気持ちの両方がみられる状態のことを指します。

葛藤は人の変化や成長の原動力となるものです。葛藤することによる苦しさを抱えながら変化や成長をするための一歩を踏み出すには、まず「健康・安全」と「リソース」を満たす必要があります。

「健康・安全」を維持し、「リソース」を強め、本人が葛藤できるように支えていくために、本プログラムでは主に以下の4点について学んでいきます。

① ポジティブなコミュニケーション

家族が本人をサポートする方法は「コミュニケーション」です。不登校・ひきこもり状態の長期化に伴って、家族が本人と関わることができない、否定的なコミュニケーションをとってしまうことがあります。否定的なコミュニケーションになれば、家族が本人をサポートすることが難しくなり、良好で建設的な関係を築けません。

本プログラムでは、CRAFTのコミュニケーションスキルを参考に、7つのポジティブなコミュニケーションスキルを学び、実践していきます。7つのポジティブなコミュニケーションスキルを身につけることで、相手に想いを伝えるか伝えないかの二択ではなく、伝えるのであればどのように伝えるかを考えていけるようになります。

② 不登校・ひきこもり状態の理解

本人の状態が理解できないと、どのタイミングでどのように関わっていけばいいのかわからなくなってしまいます。

そのため、本プログラムでは、不登校・ひきこもり状態の基礎知識を学んだ上で、本人のひとつひとつの言動を「行動分析」によって理解していきます。

行動分析は応用行動分析学に基づくもので、特定の人の行動がどのようにして増えたり減ったりするのかを理解する考え方です。行動分析によって本人の言動を理解することができれば、タイミングや関わり方を考えていきやすくなります。

例えば、自宅から一歩も外出しない18歳の息子。

親は心配して声をかけます。

「ねぇ、もう高校3年生でしょう?将来のどうするの?大学?専門学校??就職は無理でしょう?」

「ちょっと!聞いているの?いい加減にしなさいよ!!」

すると息子「うるさい!!いつもそうやって怒鳴るんだ。馬鹿野郎!!」

困った親は「また始まった。息子が怒鳴りだしたら手がつけられない。暴力を振るっても困るし。」

「ここは、そうっとして、本人が話すまで待とう。」と、そっとドアを閉めます。

さて、この状況、一体何が起きているのでしょうか。

ここで考える問題行動は息子の“暴言”です。

親の声かけによって、いつも同じように息子は“暴言”を吐きます。

ではなぜ“暴言”が続くのか。

行動機能分析で考えてみましょう。

息子は“暴言”を吐くことで、“親から将来について問われ不安が高まる”という状況から離れることができています。

つまり、親にとって息子の“暴言”は問題行動ですが、息子にとっての“暴言”は良い結果(将来について問われることを阻止し、不安が高まらないで済む)を生み出すものとなっているわけです。

良い結果を生み出す行動である“暴言”は、益々増えてしまいます。

上記はあくまで一例ですが、本プログラムでは本人のある言動が続く理由について行動分析を使って理解することによって、タイミングや関わり方を考えられるようにしていきます。

③ 生活の枠組み作り

不登校・ひきこもり状態の初期にはあった生活のルールが、時間の経過とともに曖昧になったり、守られなくなっていくことがあります。長期化すればするほど、その傾向は顕著となります。

生活のルールは、本人が葛藤して、変化や成長に至るための必要な土台です。本プログラムでは、どうして生活のルールを維持することが本人の葛藤に繋がるのかを学びます。そして、生活のルールを作るためにどのようにして本人と話し合うかを考えていきます。

④ 家族の生活の質を高める

不登校・ひきこもり状態が続くと、家族も心身ともに疲弊していきます。

いつまでこの状態が続くのか、どうしたらいいものか、考えれば考えるほど気持ちが沈んでしまいます。

暗い思いや辛い考えが続けば、なかなか良いコミュニケーションができなくなります。

どうすれば元気を維持できるのか、使える資源は何か、家族が元気になるとどのような良い影響があるのかを学んでいきます。

家族が元気でいるということは、相手を受容することへとつながります。

家族の健康を維持することで、継続的で安定的な支援が可能となります。